私が地下ボクシング養成学校にいた頃の話、それも卒業に近づいた高学年にいた頃の話。

この話をする前にいつもいう言葉がある。

 

「本当にあの時は金がかかちゃってさぁ、本人の通帳取り上げとけばよかった。先輩の権限で!」

そうして笑うのだ。

私が騙されて大金を失うハメになった話を聞いて欲しい。

*

 

その夏。

放課後というべきか、日課が全て終わり私の個室へ行く時、そいつとぱったり出会った。

「ちわッスー」

妙に馴れ馴れしく声をかけて来たヤツがいる。

私は3年生なので同学年かと思うが少し若さが残る女子だ。

胸のあたりまでストレートな黒髪を伸ばして、ひょろっとしたヤツだ。

顔は正直可愛い。日本人的な可愛さが有り、目は細く、とはいってもキツネ目

では無く真顔で笑っているように見えた。

頬に大きな絆創膏が貼ってある。練習試合で怪我でもしたのだろうか。

「あ、はいこんにちは」

私は無難なく返す。

 

「有名ッスよねー、自分、今年入学したんスけどー、誰も知り合い出来なくてー」

今時の若者……とはいっても私も若者だろうが、こんなものだろうか。

当時は「〜じゃね?↑」「〜みたいなー→」のようなイントネーションが流行っていた

ような気がするがそれともまた違うような気もする。

「なかなか仲良くなられていっていうかー、何だろなー」

のびた素麺のようなイントネーションだ。そして独り言を一方的に行っている。

「めちゃ有名じゃないッスかー、だから美由紀さんだったらトモダチになってくれるかって

思ったんスよねー」

「そう、残念だけど初対面でそういう人はちょっと」

私がつっぱねて歩いていこうとすると、袖を引っ張って来る。

「わーたーしーはー、薄井サチ。ですぅー」

手を振り払うと伸びてしまった右の半袖を見て溜息を付きながら私は言った。

「そう、敬語。私ならいいんだけど先輩達にもちゃんとしないとボコボコにされるよ」

「へへ、もうされましたー」

「その頬の絆創膏?」

「そうッスー、なんか、『ねー、友達にならないッスかー?』って言ったら目の前に火花が散ってー」

バカだこいつは。

「薄井さん」

「はいー?」

「なんか、全体的に……こう、無理」

私は的確な言葉が見つからなく、ろくろを回すように手を動かしながらそれを言うしかなかった。

「何の事ッスかー?」

「ニュアンスでわからないかな……」

「だってもう長くはここにいられないから、『行かなきゃいけない場所』があるから

思い出残したいし友達も作っておきたいんスよー」

「じゃあスパーリングでもする? 練習相手になってくれるならって交換条件を出すのは

あまり友達の定義からは外れてるけど、まあ今回はそういう形で」

「なんぼでも殴って下さいー、じゃあ友達ッスねー」

素直に喜んでいるその顔は人懐っこく、内面は純粋なのかなと美由紀は思った。

 

*

 

「ほら、立てっ!」

私は叱咤激励をする。が、薄井はリングの上でいくら私に叩きのめされても立ち上がる。

叱咤も激励もあまり意味が無いというか、とにかく根性がある奴だった。

莫迦は胸がでかいというが薄井はやたらと胸がでかい。

横たわる裸体、側に転がるうっすらと唾液で光るマウスピース。

艶かしい二重の目を潤ませて体は汗ばんで、プロになれば人気が出るのではないかと

いつも思っていたものだ。

「薄井……いや、サチさぁ、その『行かなきゃいけない場所』に行かずにプロ目指しな

よ、強くなれさえすればさぁ」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁー」

彼女は息を整えて言った。

「それが無理なんッスー。だからこうやって思い出を作ってるんじゃないんスかー」

「早く卒業させる方法……」

「私、思うんッスよー」

「ん?」

「ほら、おやつのカ○ル。あれが全部マウスピースだったらすぐ卒業出来る数ッスよねー。

形もそれっぽいし……」

「立てっ!」

私は声を荒らげて言った。そしてやっぱり莫迦は胸がデカいのだなと認識した。

この地下女子ボクシング養成所学校では公式に試合をして買ったら相手のマウスピースを

奪える。その数で鍼灸から卒業まで決まる仕組みだ。

「ほら立ちましたよー、続き続きー」

そう言いながら薄井はファイティングポーズをとる。

「ほら、大事なマウスピースを放っておかない!」

「あ、そうでしたー」

薄井はニヘッと間抜けな顔をしてそれを広い、自分の口に入れた。

「覇気が無いんだよねぇ、サチは。相手を圧倒するような覇気」

「そうですかぁー?」

「無い。でもエロさがある。この先の人生で武器になりそうなエロさだけはある!」

「えー、よくわかんないですー」

*

後輩に銭林デンコ(ぜにばやし でんこ)という小柄な子がいた。

今では私と同じ地下女子ボクシングのプロなので後輩とは言えないが、語尾に

「なのだ」を付けるこれまた妙な語り口と、同性愛者では無いかと噂される奴だが

彼女が言うに「あれは、けしからん萌えです!」とひどく興奮していた。

これは余談だったけど、変な語尾繋がりという事で……。

*

薄井と出会って一週間、特にこれといって語り合う事は無かった。

そして突然「私と公式試合しませんかー? 受けてくれませんかー?」と言ってきた。

何を馬鹿な、マウスピースを失ったらまずい。現にスパーリングでも私に一方的に

やられてばかりではないかと言うと、「だからー、卒業とか関係無くってー、私には

『行くべき所』があるからこれは思い出作り、メモリーなんですよー、ねぇー、公式

試合しましょうよぉー、アメリカより遠い場所へ行っちゃうんですからー!」と訴えかけてくる。

「私は常に本気だからね!」と強く言って承諾した。

 

*

 

試合当日。

私は勿論、赤コーナーだ。トップレスで赤いグローブに赤いブルマ。

そしてそれらを青にした青コーナーがサチだ。

私のセコンドには、プロになって未だにライバルを続けている小百合についてもらった。

おさげの見かけは華奢な女の子。だがテクニカルでなおかつ、どこから出るのかという程

スタミナのある選手。柔和な笑顔が魅力的だ。私と卒業をかけて養成学校で死闘をした末に

私に勝ち、いちはやくプロデビューした。

そしてサチには丸山という、未だに卒業出来てないというか、この学校を事実上仕切っている

K教員(本名は謎)というキリッとした顔立ちの人の雑用係のような感じになってしまった女子が

務める事となった。

 

観客席(とはいってもパイプ椅子を並べているだけ)からは「無謀よね」や「美由紀さんに

勝てるワケ無いのにね」といった声がヒソヒソと囁かれている。

が、サチは何時も通りの表情だ。

 

ゴングが鳴ると私は速攻突っ込んでいった。何ども言うが手は抜かない。

サチはガードをするがそれは計算の内だ。私は一気に踏み込んで渾身の力でガードの上へストレートを

叩き込んだ。

「あれっ?」

と妙な声を出すサチ。私の力でガードしていた腕が一瞬ではねとばされどこからでも攻撃出来る状態に

なった。

そして利き腕では無いにしろ、左でもう一発ストレートを打つ。

ぐしゃっ!

顔面を一発で粉砕した手応えがあった。

 

「ぷふぅっ!」

サチが唾液を口から吐いた、そして私が突っ込んで行って彼女はコーナーポストに既に追い詰められている。

ガードを破っては左右のフックを打つ、一方的な試合展開になった。

だが打っても打ってもサチは倒れず、一瞬のスキをついて私の顔面に一発のジャブを入れた。

「へへー」

このピリッとした空気の中、間の抜けた声がして、そのジャブでひるんだ私にストレートを売ってきた。

ガシュッ! と脳に音が響きわたり、私は腰からマットの上へ落ちた。

ざわめきが観客席からおこる。

「一年生が三年生を1ラウンド目にダウンを取る。これってギネスモノッスよねー」

私のパンチで腫れ始めていた顔を緩ませてサチは言った。

「くっ!」

私は立ち上がり、どこかしら油断していた自分を戒めた。そうだ、こういう何を考えているかわからない

相手が一番厄介なのだとそこで気が付いた。

だが決定的なダメージでは無い。それに何を言われようが動揺してはならない。

ジャブから攻める。サチの顔にピシャッ、ピシャッと的確に当たる。テクニックもパワーもやはりこちらが

上だ。それをふまえた上で冷静に、常に冷静にと攻め進む。

何度かガードを崩しては顔面にパンチを打ち込み、サチの頬は見事に腫れ上がって来る。

「だりゃぁっ!」

私はフィニッシュブローにしようとストレートを放った。

 

ぐしゃぁぁぁぁっ!

 

これは決まったと思った。サチの目がぐるんと白目になり、口から「ぶほあっ!」と純白のマウスピースが

吐き出された。

散々叩きのめしたので既にマウスピースは血に染まっており、びちゃびちゃとマットの上を跳ね回る。

よくこれを射精のように吹き上げる等と表現されるが、その時に限っては自らの魂を吐き出すようだった。

そしてうつ伏せにダウンして体をピクピクと痙攣させながらも……サチは自分のマウスピースを、グローブを

まさぐりながら探している。

そして真っ赤に染まったそれを取ると口に運び、何とか銜える。

白目、イってしまった目のままサチは立ち上がった。

ラウンドが終わるまでまだ時間がある、残念だが立ち上がっても勝負は見えている。

同情はしない。私の力を出し切って『相手をマットに沈める』事に変わりは無い。

ガードを崩して叩き込めば勝てると思った。

 

 だがサチはガードをしなかった。でたらめな戦術だが、サチは、がむしゃらにパンチを打ち込んでくる。

パチンコでやみくもに球をはじくように、どこから何が飛んでくるかわからないようなパンチ。

そして押されかかっている自分に私は気が付いた。後退していたのだ。

それでも私はパンチを打ち続ける。サチの顔面を文字通りボコボコにしており、彼女の右目は腫れて

塞がっている。もう私の右からのパンチはあまり認識出来ないだろう。私は容赦なく右腕からパンチを

放ち続けた。

「ぶほぁっ!」

もはや血の塊のような元は白くて艶かしい物体を吐き出した。

ビチャッとかグチャッとか激しい音でバウンドするマウスピースの音が聞こえるが、そんな中でもやみくもに

サチはパンチを打ってきた。

「沈めぇっ!」

私の搾り出した声。上から振り下ろすようにサチの右頬をえぐりとるようなパンチを打った。

「がぼっ!」

もう一度マウスピースを吐き出したのかと思うほどの血の塊がサチの口から吐き出される。

顔面を集中攻撃して相当パンチ酔いをしているのには間違いが無いのだが、サチは倒れない。倒れずに

よろけつつ、やたらめっぽうにパンチを打ってくるのでひどく試合運びが難しい。倒れないのだ。

 

ドスッ!

 

「うぐっ!」

声をあげたのは私だった。ひたすら私の顔を狙っていたパンチから急に正確な起動のボディを打ち込んできたのだ。

私はこみ上げてくる苦しさにマウスピースをベッと吐き出すと膝を付いた。

サチが私を見下ろしている。その顔はひどく殴られた痕跡を残しているが、笑っているのはわかった。

「二度目のダウンッスねー」

伸びた素麺め! 私は焦った。今回のルールは通常のボクシングと同じく、3回ダウンすると負けだ。

力も技も無い相手の怖さをこの時始めて知った。

 

 そのまま1ラウンドは私が消極的な攻めになったまま終わった。

セコンドに戻ると小百合が狼狽えていた。それはそうだろう。小百合は私の圧勝で1ラウンドで試合が終わるだろうと

言っていたのだから。

「ねえ美由紀、どういう戦術にする?」

いつもは口を挟まない小百合が聞いてきた。

「さぁ?」

汗で濡れる私の体を小百合に吹いてもらいながら私はその一言だけを発した。

要するにキッパリ言ってしまえば、戦術もクソも無いのだ、ここまで相手が滅茶苦茶だと。

 

 そして2ラウンド目、マウスピースを噛み締めて私はリング中央まで出た。

さあどう来る? サチ。

 

 サチは来なかった。コーナーポストへ背中をあずけて笑っている。

汗ばんだ体を、どうぞ打って来なさいと言わんばかりの……挑発なのだろうか。

私はそれに乗った。野生本能のままに打ち合ってやろうじゃないか。やってやろうじゃないか!

一気に突っ込む。

サチが構えるのが見えた。ガードする気は毛頭無いらしい。

グシャッ! グシャッ! グシャッ!

連続で私のフックがサチの頬を捉える、その度に血と唾液が散る。

サチのパンチもランダムに飛んできて私の顔をとらえる。

しばらくそれが続くと、さすがにサチはスタミナと精神力が尽きてきたらしい、私にクリンチをして来た。

思い出すとスパーでは一度も無かった始めてのクリンチだ。

サチの体温を感じる。汗ばんだ体からツンとする匂い、しかし甘い女の子の匂いもする。

そして柔らかい。密着した体同士でそれを感じる。

そして耳元へ息を吹きかけるように乱れたハァハァという息遣い。

ここが攻めどころだ。

 

サチを突っぱねて私は強烈な一発を叩き込んだ。

ストレートが瑞々しい果実を砕くような音が響きわたり、真正面から私の拳がサチの顔面を歪な形にする。

グローブを引くと血と唾液の糸が引いた。

そのままサチは仰向けにダウンした。ダウンというよりマットに自身を叩きつけるような派手な有様だった。

 

「ほら、立て!」

とは言わない、これはスパーリングでは無い。相手をマットに沈める真剣勝負なのだ。

今まさに目の前で満身創痍になり白目で体を痙攣させている相手に同情などしない。

 

 サチは立とうとしているのか、もがいている。もう意識もほとんど持っていないだろう。

私はその時、冷たい目をしていたと思う。カウントがエイトの時に、瞬間的にサチの目に元の魂が戻った時に

私と目が有った。

立ち上がるつもりだ。

私は一向に構わない。何度でも立ち上がって来れば良いし、三回ダウンさせればそれもまた良し。

自分の赤コーナーへ戻るとただ時間が過ぎるのを待った。

そしてテンカウントが言い渡されると立ちかけていた体から魂が抜けるかのように汗まみれの体をグチャッと

サチは投げ出して動かなくなった。

私はレフリーに右手をあげられる。

そして勝者の誇示をする。逆の手も挙げて私は勝ったんだとアピール。

誰もが結局はこのように私に滅多打ちにされる結末を想定していたようで、救急係はもう既に担架を用意していた。

その上に乗せられ、どこを見ているのかわからない目をしたまま、サチは運ばれ、敗者として消えていった。

 

*

 

「顔がくっそボコボコですー、もうー」

試合が終わって夕方に、小百合といっしょに歩いていた廊下で出会ったサチに言われた。

「試合はこの位厳しいモノだからね、同情の余地無し」

私がそう言い切ると、ニヤッとサチは笑って言った。

「あの時のボディ、あれ効いたでしょー」

「さすがに効いたね、サチは絶対これから強くなるのに勿体ないよホント、どこへ行くのか知らないけど」

「残念―。でもいい思い出になったッスー」

「はいはい、元気でやれよ」

「やります、っと。今日の記念にと、はいこれー」

サチはデジタルカメラを小百合に押し付けた。

「あ、撮影しろって事ね?」

小百合はデジタルカメラの設定を必死に調整している。

「そのままシャッター押せばいいんですよー、設定してありますからー」

やれやれ。小百合も先輩なのに相変わらずな口をきくなと私は呆れを通り越してクスリと笑ってしまった。

 

*

 

その晩、というか夜中は学校が慌ただしかった。『蒼井そら』という女子の事は知っていた、スポーツするには問題無いが

病気を持っていて長く無いのだとK教員から聞いていたからだ。但しこれは皆には秘密だからね、と。

その女子が救急車で運ばれる騒ぎになったらしい。私に出来ることは特にないので元気になって帰ってくれば良いなと思った。

 

 そうして何となく眠れなかったので私は自分の部屋で机に向かって今日の日記を書いていた。

静寂の中、色々思い出された。試合が圧勝に見えたが反省すべき点が有るという事、私はまだまだだという事を細かく書く。

「美由紀さーん」

ふいに後ろからサチの声がした。

「今、日記で忙しいから」

私はぶっきらぼうにそう言った。

 

「もう、つれないなぁ。私がどこへ行くか、もう知ってるくせに」

 

「まぁね……そら……」

 

「えへー」

私は振り返らない。

 

「そらの話し方は、伸びた素麺みたいだったよ」

 

「……えへー」

 

「行くの?」

 

「ウン」

 

「そう……」

 

「ウン、美由紀さんもいっしょに……行くー?」

 

「……」

 

「冗談―、冗談だよー。あー楽しかったー」

 

そこから静寂が続いた。

ふと振り返ったが当然そこには誰もいなかった。

 

*

 

翌日、彼女の遺品整理で私宛の手紙が出てきた。

 

―――私は次の発作が出たら死んじゃうよって言われてヤケクソでこの学校へ来ました。

そしたらいるじゃないですか、格好良い人が! 美由紀さんが! 惚れました。

だから友達が出来ないんじゃなくて本当は私の名前を知られて美由紀さんに同情されない

ように誰にも名前すら教えなかった。で、私は運が悪い方だったから幸薄いような名前で

近づいたんです、気付いてました? 気付いてませんでしたよねぇ、だから本気で向かって

来てくれた。楽しかったです。

あーあ。時間があればなぁ。

 

貴方と、何気なく繁華街をぶらぶら歩いてみたかった。

そして貴方は言うんです。

「コーヒーでもおごろうか?」って、ぶっきらぼうに。

そしたら、私はそれに甘えちゃうんです。パフェも付けて下さいよって。

おかわりなんかしちゃったりして。

そして夕方に缶コーヒーでも飲みながらちょいと語って、夜になると

また明日ねって。

 

そろそろかな、うん、そろそろ『行かなきゃいけない場所』に行くようです。

騙したついでにお願いします。

 

この学校の一角に私のお墓を立てて下さい、四角いヤツじゃなくって

ピコチュウってマンガのキャラの形のやつ。お金かかりますけどね。

 

あ、最後位書いときますかね、私は貴方の事が―――

 

途中で日記は途切れていた。

 

*

 

桜の花が綺麗に舞っている。

柔らかい風がそよそよと吹いていた。

「面倒臭かった。この学校の一角を買い取らせるのに相当苦労したんだからな!」

いつものように男口調でK教員がぶっきらぼうに言う。

「はは、すみません」

私は苦笑するしかなかった。

「お前も結構金かかったから大変だったよな」

「ええ、まあ相当痛いです」

「……桜の気の舌にピコチュウの墓ってシュールだな」

「シュールですねぇ」

「……」

「……」

「春も花粉が結構飛ぶんだよね」

「ええ、飛びますね」

「鼻が出る」

「ええ、出ます」

「くしゃみも出る」

「出ますねぇ」

「目も涙が出るよな」

「ええ……出ますね」

 

その時私はふと空を見上げた。

薄い桃色の桜の花の向こうに見えるどこまでも広がる空。

日本晴れ? ピーカン? 晴天の霹靂?

 

いや

 

 

 

 

 

あおいそら

 

                 おわり