君よちなっちゃんを超えろ! 第一話

 

「なあ、ちなっちゃん」

麦茶を飲み終えた俺(レイジ)は額の汗を拭きながら話しかけた。

すぐに顔面にストレートを打たれ、俺はフラフラッと後退する。

「親を名前で呼ばない!」

そうは言うが、若くして俺を産んだちなっちゃん(千夏という)は

オバサンという年齢では無い。30代だしちょっとカワイイし、俺にとって

異性と同じ屋根の下で暮らしているという感じがしている。

「恥ずかしいからやめなさい……」

ちなっちゃんは恥ずかしいからやめろって言う。

って事は俺を異性だって認めてる事になるな……。

「なあ、ちなっちゃん、俺ってカッコイイ?」

「さ、さぁ」

顔を紅くするちなっちゃん。可愛い、こうなると『ちなっちゃん』と呼んでも

反撃して来ない。

「ちなっちゃん、今日デートなんだけど金が無くてさぁ」

俺は調子に乗って小遣いをせびってみる。

「18歳以上だけど学生なんだから、遊びは控えなさい」

そう言いながら、ちなっちゃんは財布を開ける。

「で、一万円位?」

「そ、そんなにいらん!」

流石に俺は断る。確かにウチは裕福だが、俺はちなっちゃんにお金の大切さを

叩き込まれて育ったので一万なんてもらえない。

「映画見るだけだから1200円あればいいんだケド……いいかな」

「はい、1200円」

俺はヘコヘコしながら金を受け取った。

ちなっちゃんの親は大富豪(玉繭家たままゆけ)だったが、それ故に家を継ぐには家訓を主としという部分が

有った。ちなっちゃんはそれに縛られるのが嫌で中学校を出たらすぐ働きに出て

自給自足の生活を始めた。

ちなっちゃんの兄弟は遺産をアテにしてグダグダと生活をしていたようだ。だが俺のじいちゃんばあちゃんが

選んだのは、ちなっちゃんだった。金遣いをきっちり考えて、玉繭家を全く頼らなかった事を高く買われたらしい。

遺産相続も断ったが、結局無理矢理、ちなっちゃんは両親の財産を受け継いだ。

 

「いや、なんかゴメン、1200円ももらっちゃって……」

俺は申し訳なさそうに言う。ちなっちゃん魂が染み付いているんだなきっと。

俺の友人達は二万円以上の服を平気で飼うが、俺は500円Tシャツで済ませる。そんなに金はかけられない。

それにブランドなんて知らない。俺が服を買ってる店は個人の婆ちゃんがやってる店で、Tシャツのコーナーには

「丁シャツ」と手書きで堂々と書いてある。て、ていシャツ? ゴロは似てるが。

 

ピンポーンとチャイムが鳴る。無駄に五月蝿い家のチャイム。

彼女の彩(いろどり)が来たらしい。

「お、じゃあ行ってくる!」

と俺は家を飛び出してデートを楽しむ予定だった。が。

「ちょっと上がってもらって」

とちなっちゃんが言う。

それがこれから起こるドタバタ劇の始まりだった。

 

俺と、ちなっちゃんが並んで座り、彩は向かい側の席に座る。

何だこの空気は。面接のようなピリピリした空気。

 

「……結構遊んでそうな子ね」

ちなっちゃんがいきなり言った。

「おいおい、何て事言うんだ!」

俺は席を立とうとしたが、ちなっちゃんが睨むので大人しく座った。

確かに彩は限りなく白に近い茶髪で、格好もチャラチャラしているが、遊び人では無い。

貧乏な家庭に育ち、自分の娯楽は自分で稼いだお金で何とかしている。幾つもバイトをしながら。

それに家に金も入れている。高校の学費でさえ払っているのだ。

「いいよレイジ。私は気にしないから」と、彩は落ち着いたものだ。

「きちんと育てたいから付き合う女性もきちんとしてないとね」

なんだ? 今日はやけに、ちなっちゃんは攻撃的だ。

「その辺は、レイジが選んだ女の子で良いんじゃないんですか? 私は選ばれる自信はありますけど」

彩は言い返す。

「自信ねぇ」

ちなっちゃんと彩の間にマンガのような火花がバチバチと散っている。

「レイジ、ちょっと席を外してもらえる?」

「え? ちょっと……ちなっちゃん、どういう事?」

「いいから席を外しなさい。女同士の話し合いがあるんだから」

「へ、へい」

俺は自分の部屋へ向かった。

 

 

 

彩は汗ばんだ手をギュッと握る。

レイジの事は大好きだし、自分なりに人生に対する努力はしているし恥ずべき事は一つも無い。

何を言われても大丈夫だ。しかし何を言われるんだろうと頭の中が少しぐるぐると混乱しそうになる。

そして千夏の口が開く。

 

「金銭面に関してはきちんとしてるみたいだけど」

「は、はい」

「レイジを守れる戦闘能力はある?」

戦闘能力? どの時代のどんな言葉だろう? いきなりのその言葉に、彩の頭はボムッと爆発して

真っ白になった。

 

「要するに強い? って事。精神的には強そうだけど、肉体的な強さはある? って意味」

「いやそれはわかりますけど……」

レイジを腕力の面でも守れるかという事はわかる。だが普通はそういう部分は男性が女性を守るべきではないか?

彩はそう思って口に出そうとしたが、それを飲み込んで言った。

「守る自信も……勿論あります!」

「じゃあ示してもらおうじゃない」

えーっ! と彩は再度頭が真っ白になりそうになった。

ガチの喧嘩をする気だろうか。確かに用心棒のバイトもしたことはあるので腕に自信はあるが。

「家は家系上、女も強くないとダメなの」

「家系……上?」

「そう、レイジに聞いてない?玉繭家の事」

「いえ、レイジは何も……」

「そう……金目当てでレイジに近寄ったわけじゃないのね」

「も、勿論です」

「じゃあ、携帯持ってる?」

「はい」

「それで玉繭家でググってみて?」

彩は言われた通りに検索をしてみた。

そこに書いてある事を見て驚愕する。

「え……何だか凄い家系です……ね」

日本でも指折りの規模を誇る家系らしく、見た限りレイジが家系を引き継いでも一生遊んで暮らせるような

レベルだ。

「そういう事。だから暗殺も結構起こるワケ。女も強くないと駄目なのよウチは」

彩は納得した。納得して、その瞬間に覚悟を決めた。

「テストでも何でもして下さい! 玉繭家を継いでやって行きます!」

「ほー、骨がありそうね、じゃあ勝負しない?」

「勝負ですか?」

「そう、勝負。剣道でも柔道でも何でも。何かスポーツはやってない?」

「あ、私、女子ボクシング部の部長です」

彩のその言葉に、千夏は驚いた顔を魅せた。

「あら、それは……期待しちゃっていいかも」

「はい、お試しになって下さい」

「じゃあボクシングで勝負してみましょうか?」

「えっ? え、ええ。受けて下さるなら」

「決まり、今からする?」

「今から?」

「うん、地下に格闘技場があるから」

「えーっ!」

「見た目はここ、普通の家に見えるでしょ? あるの。大きい地下室」

「そ、そうなんですか」

「そこでレイジも鍛えたからね」

「はぁ……そうなんですか」

彩のデート気分は木っ端微塵に砕かれ、人生の分かれ道にいきなり立たされた。

 

 

俺(レイジ)のトラウマがみっちりと詰まった地下の格闘技場。

まさか俺の彼女がそこで試されるとは……。映画を見に行こうとウキウキした気分は

鬱々とした気持ちに変わった。彩は嫌になって俺と絶縁しないだろうか。

それが気になる。まだセックスもしていないのに……。

 

 

 

久々に地下室のじっとりとした空気に包まれる。ちなっちゃんと彩はボクシングで勝負をするらしい。

「レイジ、二人分セコンドしてね、彩ちゃんにはインターバルでのアドバイスを認めるから」

ちなっちゃんはさらっと俺に言う。

複雑な気分だ。

リングの上には青いスポーツブラとスパッツ姿、青グローブの彩がいる。

ちなっちゃんは自信があるのか、それらの赤い素材を着て各上気分だ。

お互いに純白のマウスピースを口に含んでにらみ合っている。

(どっちも怪我しなきゃいいがな)

俺はそう思いながらゴングを鳴らした。

 

ゴングの音と共に千夏が翔る。

千夏は様々な格闘技経験があり、リアルで暗殺者と渡り合った事があるので肝っ玉は座っている。

多少殴られようが、相手に致命傷を食らわせば勝ちという考えを持っているので迷いは無い。

バンッ!

千夏のしなるようなフックを彩がガードする。

(うわっ、重い……)

彩は数歩後退する。ほとんどロープを背にした状態だ。

バンッ!

もう一発フックが飛んで来て、彩のガードが弾き飛ばされた。

普通ならそこで試合終了になるはずだった。レイジが嫌というほど味わった展開。

だが彩は腰を落とし、サッと千夏の後方へ移動した。

「やるね!」

千夏はそう言うと自動追尾システムが腕に付いているかのように、後方へパンチを飛ばした。

それも彩は丁寧にガードする。

(よし、こうやってガードして行けばスタミナの面で私がリードをいつか取れる!)

彩はガードに徹する。

「防御に徹する気ね……」千夏はそう言うとガードの構えをした。

「ほら打って来なさいな」

(くっ……)

彩はこれがただのボクシングでは無い事を改めて理解する。

暗殺者と体面した時の立ち会いを求められている。

「じゃあ行きますよ!」

彩は叫んで、足を踏み込み右フックを打つ。

ヒュンッと青いグローブは空を切った。

千夏は首を傾けただけでよけていた。

彩がフラッと前のめりにバランスを崩す。

「これで刀との勝負だったら死んでるわね!」

グシャァッ!

レイジは、彩が女子ボクシング部の部長だという事は知っていたが、無敗でパンチを食らった所は見たことが無い。

その彩の顔が、パンチを食らってひしゃげている。

「うぶっ……」

苦しそうに彩は声を漏らした。千夏は更にパンチを打ち込む。

「その程度ね」

肉を弾くような音が響きわたり、レイジは顔をそむけた。

 

ストップウォッチが鳴るまでたったの三分だったが、レイジにはそれがとても長く感じた。

ひたすら彩が打たれる音を聞きながらは長すぎた。

「ふう……レイジ、その、彩ちゃんを先に介抱してあげなさい」

「あ、ああ」

レイジは椅子を素早く置いて青コーナーに彩を座らせた。

「大丈夫か?」

「大丈夫。致命傷は食らってないから……レイジ。私が戦う姿をきっちりみててくれた?」

「あ、いや、ごめん、目を背けてた」

「ああ、レイジの心を痛めちゃったかな。ごめんねこんなにやられちゃって」

「い、いや……」

「ん?」

「いや、俺……さ」

「どうしたの?」

「おれ、女子ボクシングフェチだからその……」

「え?」

「ちんこ立ちそうになったから目を背けてた」

「えーっ!」

「その、オナニーのネタにする位にフェチだから」

「えーっ!」

「その、今しがたの彩が打たれる姿なんて見ちゃったら今日もそれでオナニーしてたかも」

「えーっ!……でも、まだセックスした事無いけど、レイジのオナニーのネタになるのも嬉しいかも」

「えーっ!」

「その、打たれる姿に興奮するんでしょ? わざと無様に打たれてあげようかな」

「えーっ!」

「オナニーのネタにいいでしょ? レイジの喜び組になれるだけでいいかも」

「えーっ! と、とりあえずほら、出せ」

レイジが右手を彩の口元へ出す。

「ぷぇっ」

生暖かいモノがベチャリとレイジの右手に落ちる。純白のマウスピースだ。

唾液が指の間から滴り落ちる。

(うおっ、彩の使用済みのマウスピースだ、やべぇ)

「レ、レイジ」

「う? なに?」

「た、立ってる」

レイジはズボンの上からはっきり解るほど勃起していた。

「ネット上でしか見たこと無いけど、やっぱり唾がベトベトのマウスピースフェチって本当にあるんだ……」

「……そうですごめんなさい」

「レイジの理解者でありたいから、私は喜んでくれたらそれだけで……そうだ!」

「な、何だ?」

「そのマウスピース、洗わずに使い込むから、試合後にプレゼントするよ」

「い、いいのか?」

「いいよ、でも千夏さんを倒しにかかるから、勝ってもうらまないでね」

「わ、わかった」

「それで、何かアドバイスはある?」

「うーん、とりあえず一度ハマったらガンガン打たれるから、流れを変えるためにトリッキーな戦法がいいかも。

例えば……打つべき時では無いパンチを打ってみるとか」

「なるほど、わかった。やってみる! 後は休憩するだけだから、千夏さんの方に行ってあげて」

「お、おう。じゃあこれ」

レイジは唾のべっとり着いたマウスピースを彩の口にねじ込むと千夏の赤コーナーへ向かった。

その途中、思わず手にベットリ付着した唾液の匂いを嗅いでみた。

ツーンとした刺激臭に、勃起度がアップした。

 

 

「ちなっちゃん、ごめん遅くなった」

「レイジ……」

「いやだからごめんって」

「そうじゃなくて」

「ん?」

「あんたが女子ボクシングフェチって知ってるんだけど……あの娘のマウスピースに欲情してたでしょ」

「えーっ!」

「だってあんたがいない時にパソコンのキャッシュを見たから知ってたし」

「えーっ!」

「なんか母さんさ、あんな小娘に息子がたぶらかされるのが嫌なわけよ」

「な、何の事だろう、ちなっちゃん。俺は女子ボクシングの学科をとってるから勉強の為にネットで調べてるだけだし」

「えーっ!」

「そ、そうだ。卒論の為だし。女子ボクシングでオナニーする事についての卒論だし!」

「えーっ!」

「ちなっちゃん……そろそろ突っ込んでくれないと俺困る」

「えーっ!開き直り!?」

「すまん、俺なんか今日、女の人に謝りっぱなしな気がする」

「ふふん、マウスピースのエロさもあんな小娘には負けないから、ほら、左手を出して」

「左?あ、ああ」

どろどろっとレイジの左手に唾液が流れ出て、ゆっくり千夏の口から純白のマウスピースがせり出てきて

べちょっと落ちた。

「ほら、どう? 私の唾とマウスピースの方がエロいでしょ? 大人のマウスピースって感じで」

「お、俺どう言っていいのかわからん……」

「さっき、あの娘……彩ちゃんのマウスピースを洗わなかったでしょ? 使用済みをもらう気でしょ」

「ドキッ、そ、それは……」

「じゃあ私のも洗わなくていい、同じように試合が終わったらマウスピースあげるから」

「そ、そうか。す、素直に嬉しい」

「いい? その代わり絶対に私のマウスピースでオナニーしなさいよ! 私ので!」

レイジは天国へ昇るような気持ちがしたが、二人の女性に板挟みになって若干のストレスも感じた。

 

カーン

 

2ラウンドが始まった。

当初は家系を守るために命の切った貼ったという趣旨の試合だったが、彩と千夏のベクトルはエロさフェチさに向かってしまった。

「打って来なさいよ!」

「千夏さんこそ打ってきて下さい!」

「このっ!」

「何ですかっ!」

リングの上では低レベルで原始的な打ち合いがされている。

交互にフックを打っては打たれては、二人の唾液がビチャビチャとリングの上へ飛び散る。

 

グシャッ!

グシャッ!

 

果実の果肉が砕けるような音がして、リングの上へベチャベチャと二つのマウスピースが跳ねる。

ビチャッ、ビチャッ、ビチャッ……。

クロスカウンターだった。

二人は同時に仰向けにダウンした。

二つのマウスピースは跳ね続ける。

(うおっ、どうしたものか)

レイジは戸惑った。レフリーがいないので自分がカウントをするべきか。

(う、うむ。やっぱり公平に俺がレフリーをするしかないな)

リングの上へ乗るとレイジはカウントを始めた。

「わ、ワン、ツー」

「く、くっ……案外効くパンチ打つじゃないの」

千夏が呟きながらググッと立ち上がろうとする。

「なかなか……私もやるでしょ?」

彩も立ち上がろうとする。

「セブン、エイト……あ、二人立ったね。じゃあ俺はリングの外へ……」

レイジがリングから逃げようとすると二つの声がする。

「マウスピース銜えさせてくれない?」

「マウスピースを口に入れてくれない?」

 

レイジは踵を返した。

(俺やべえです。なんか今すぐオナニーしたいです)

そう思いながらマウスピースを見て、あっと声を出した。

偶然にも二つのマウスピースが絡まるように重なっていた。

 

(こ、これどっちのマウスピースなのかわかんない)

迷いながらレイジは二つのマウスピースを拾った。

二つともマットからヌチャリと唾液の糸を引いた。

「ほ、ほらちなっちゃん、口あけて」

レイジが千夏の口元にマウスピースを運ぶ。

「これじゃない」

「えっ?」

「こんな青臭いツバの匂いなんて私はさせない。ベチャベチャで汚らしいし、こんなに肉厚にして保険かけてないよ

、私のパンチを食らうのが怖くてグニュグニュのマウスピースなんて私はしないから」

千夏は吐き捨てるように言った。

「ち、千夏さんのマウスピースこそ、歳相応の臭さはありますね! 大人だからフェロモンが多いツバを吐き出してるなんて

勘違いはして欲しくないですね!」

「な、何を言うのっ!」

「自分で嗅いでみたらどうですか? レイジ、自分のお母さんにただ臭いだけのマウスピースを突きつけてあげて!」

彩も声を荒らげる。

(うおー、二人は俺に何を求めてるんだ!)

レイジはめまいを感じてその場にへたり込んだ。熱病にかかったような気分になる。

そのまま少しずつ気分を抑えて、立ち上がったレイジは、二人共マウスピースをくわえているのを確認した。

(自分でくわえられるんじゃねーか!)

レイジを無視して二人は打ち合いを始める。

ぐしゃっ、ぐしゃっ。

レイジはリングの上に棒立ち。

 

ぐじゅっ! ぶしゃぁつ!

目の前で千夏の顔が歪む。重い彩のフックがそうさせていた。

「ぐぶっ!」

千夏が口から唾液を、胃液を吐くかの量吐き出した。

ビジャビジャッ!

 

一気に彩がたたみかける。

ぐしゃっ! ぐしゃっ! ぐしゃっ! ぐしゃっ!

「ほら! 見て! 千夏さんが無様に倒れるよそろそろ!」

彩はそう叫びながらもパンチを打ち続ける。

 

ピキッ

 

千夏はかがむようにパンチを避け、彩に反撃を開始した。

ベキッ、ベキャッ!

「この小娘!」

 

ストップウォッチが鳴った。

二人はフラフラとそれぞれのコーナーへ戻った。

レイジはさきほどと同じようにまず青コーナーへ行った。

「あ、レイジ。最初に私の所へ来てくれたんだ」

「あ、ああ。でもマウスピースは洗わなくていいから、何して良いのかわからんが」

「えっと、そうだね……ど、どう?」

「何が?」

「その、汗臭いし殴られて顔が腫れてない?」

「ああ、汗臭いし、顔も……紅く腫れてるな。結構打たれてる」

「どう?」

「どうって……」

「鈍感!」

「えっ、えっ?」

「手出しなさいよ!右手」

「は、はい」

「んぶぇっ」

彩のマウスピースが右手にビチャッと落ちる。

「汗いっぱいかいたから、唾がにちゃにちゃになってさっきより臭いでしょ」

「……」

「もう、ここで一度オナニーしたら?」

「えっ……それは」

「も、もう!」

彩はレイジのズボンとトランクスを一気にズルッと下ろした。

ブルンとそそり立ったペニスが姿を露にした。

「その……出しなさいよ!」

「な、何を?」

「セーエキ!」

「そんな、そんな」

「えっちはまださせないけど……その……私のマウスピースで抜けるでしょ!?」

「抜けるけど今そんな」

「あんなオバサンの唾臭いマウスピースより若々しいツーンと匂うマウスピースの方がいいでしょ?」

もうレイジは引きこもりになってしまおうかと思った。

その時

「ぶほぇっ!」

低い唸るような声がしたのでレイジは赤コーナーを見た。

今まで見たことの無い、打たれて腫れ上がった顔をしている千夏が大量の唾液を吐き出した。

「ごめん彩、ちなっちゃんの所へ行かないと!。あんなに打たれた事無いんでダメージきついんだ」

「あっ! レイジ!」

彩の声を後に、レイジは千夏のもとへ走った。

バケツを急いで千夏の顔の前へ出す。

「ほらちなっちゃん! ここへ!」

「んぼふぁっ!」

ビヂャビヂャビヂャとここまでよく出るなという量の唾液がバケツへぶちまけられ、最後にマウスピースが

唾液のたまったバケツの中へボチャンと吐き出された。

「ゆ、油断してパンチを喰らいすぎたみたい……」

「もう何っていうか、俺引き篭っていいかな? ちなっちゃん」

「私もよくわからないけど、とりあえずオナニーは私でしなさい……」

「あ“あ”あ“!いやもうだからそれが俺を板挟みにしてるんだよ!」

レイジはそう叫んでバケツを置くと階段を登っていった。

 

彩と千夏だけがリングの上にいる。

「どっちが勝つか、徹底的にやりましょう、小娘」

「え、ええ。年増の千夏さん!」

 

二人はマウスピースをくわえると打てる力を全て込めてパンチを打った。

グシャァァァァァッ!

 

 

「レイジ君、入るよ」

レイジの部屋がノックされ、開けられた。

「あ、ああ。彩か」

「うん、千夏さん……倒してきちゃった」

「えっ、決着ついたの?」

「ついた。私のアッパーで……千夏さん、口からきったないマウスピースを吹き上げて……さらにきったないツバもびちゃびちゃに

吐き出して……臭いニオイを拡散させながら跳ね回ったこれ……」

青いグローブに掴まれていたマウスピースをフローリングへ放った。

ベチャッ、ベチャッ、ビトン、ビトン……

 

「まあ私が勝ったからいいや、千夏さんのそのマウスピースでオナニーしてもいいわよ」

「も、もう抜いちゃっていいのかなぁ、楽になっていいのかなぁ」

「何泣いてるのよレイジ君。えっちは結婚するまでナシだから、千夏さんグッズで抜いていいって言ってるの」

「グッズ?」

「うん、ほら赤い千夏さんのスパッツ。ダウンした後に、おしっこをちょっとちびったみたい」

「ち、ちなっちゃんのスパッツ?」

「うん、生臭いマ○コの匂いもする。なんか磯臭いね」

レイジがそれを受け取って嗅ぐと、確かに生臭い磯の匂いだ。それに少し乾いた尿の匂いがする。

「ほら、かぶって」

「かぶる?」

「ほらっ!」

レイジの顔に千夏のパンツがかぶせられた。

「匂いながら、これでイっちゃえ」

彩は二つの唾液でグチョグチョなマウスピースでレイジのペニスをはさんだ。

「ローション無くても二人の臭いツバでべとべとしてるから、これでいいよね」

「おいおいおい」

「おいおいじゃない! 二人の汚いマウスピースでイっちゃいなさい!」

グチュグチュグチュと音を立てて、レイジのペニスが二つのマウスピースに挟まれてしごかれる。

一分程喘いでいたが、レイジは我慢出来ずにペニスを上下運動させて白濁液を吐き出させた。

それは天井までビチャッと届いた。

「すごい、男の人の射精ってこんなに凄いんだ!」

嬉しそうに彩は叫んだ。

「こ、こんなの俺初めてだし、なんか死にそう」

あまりの快感にレイジの意識はブラックアウトした。

 

「はいクリームシチュー出来たわよ」

顔を腫らせながらもニコニコしている彩と千夏、そしてレイジ。

(仲直りしてやがる、女って怖ぇ)

にこやかな夜食会。

まあ終わり良ければ全て良しとレイジは思い込む事にした。

(大団円ではないか、ふはははは)

「ところで」

彩が口を開く。

「私達のマウスピースでペニスを挟んだでしょ?」

「う、うん」

「どっちのマウスピースでイった?」

 

「うっ」

 

二人の視線が刺さるように痛いなと思いながら、レイジは必死にくりぃむしちゅーを食べ始めた。

何と答えようと考えながら。

 

 

                           終わり。