T

「卒業かぁ」

叶七海(かのう ななみ)は溜息をほーっと大げさに吹く。

学校の返りでまだ陽は高い、もう高校3年生なので

自宅学習のような形になり、学校から追い出される。

 

「ナナ〜」

福田光子(ふくだ みつこ)が後ろから走ってくる。

 「ナナミだってば」

七海が苦い顔をして笑顔を見せる。

「だって略してナナちゃん。親友の証だよね」

そう言われて何も言い返せずに七海は傅く。

学校で男子からも女子からも人気がトップな生徒会長、

それが光子だった。

構ってもらえるだけ良いかもしれないな、名前の事は

気にすまいと思った。これまで何ども言っても治らなかった

のだから。

 

「シンユーだよね、私達」

「え?」

突然、光子がそう言ったので七海はドキッとした。

クラスで全く人気の無い自分が何で。

 

「あの、私いじめられてるしさ、かかわらないほうがいいよ」

七海はそう行ってまた傅く。

「そうかなぁ?」

逆に光子は空を見上げた。しょっぱい汗が額から垂れて来て

口に入りしょっぱい。

たまにソヨソヨと風が吹いて気持ちよく、空はラピスラズリのほうに

深い青色をしている。

 

「まあ・・・・・・さ。そんな事はいいからウチへ来なよ」

「いいの?」

光子の家は所謂金持ちの家で大きな塀で囲まれた豪邸だ。

「いいのいいの。結構私に権限があるからね」

 

U

 

「こんなに広かったんだ、光子ちゃんの部屋」

七海はタオルで汗を吹き、用意されている革張りに太ももが

汗をびっちゃりと付けてしまわないように立っている。

「座ってよぉ、気ぃ遣わなくていいんだからさ、私もべっとりしてるし」

先に光子が椅子へベチャッと座った。

つられて七海も座る。クーラーがしっかり効いており生き返ったような

気持ちになる。家ではここまで冷やすことが出来ない、親に怒られる

からだ。七海はそのうちそれを満喫するように椅子に体をもたれかけて

伸びていた。

 

「昼、食べていくでしょ? 作るから」

「あ、うん。じゃあ折角だから頂こうかな」

「そうこなくちゃ!」

しばらく光子は部屋を後にした。

その間七海は手持ち無沙汰だ。辺りを見回す。

「ほー、これが勉強机・・・・・・ん?」

机の上に「ゆるされない事」と書かれたノートが置いてある。

 

誰もがとはいわないが、こういったものの類は見たことがある。

こういった内容を書き記して取ってある人も知っている。

料理を作るのだろうか、レトルトものを温めるだけなのだろうか?

どちらにせよ廊下を歩く音がすると思うのでこれを見る時間はある。

七海はそのノートにとても惹かれている。美人で非の打ち所の無い

男女にモテモテな光子に何の不満があると言うのか。

 

そしてさらに唸る。ノートの向こう、窓際にいろいろなサボテンが

並べられている。見たこともないグロテスクなものだ。

妙な趣味だなと思った。やはり人間というものは見かけやいつも

見ている面とは違う面を持っているという事だろうか。

何にせよ時間が無い。心の中では悪いなと思っているが、七海は

光子のノートを見ることにした。

そっと開こうとすると、部屋の外の廊下からトントンと歩く音がして来た。

急がなければ。最初の頁だけで良い。

ペラっと勢い良くめくると、ノートの端に細い糸が付けられており

ワイングラスの柄にくくりつけてあり、その中の液体がバシャッと机の上

に広がった。

(しまった!)

と思いつつもノートの内容が一瞬目に入る。

 

 

『七海と吉本君が付き合いそうなんて許せない!』

 

そうだ、唯一、クラスでは吉本君が私に声をかけてくる。

デートを申し込まれたこともあった。恥ずかしくて断ったが

こんな私を可愛いを言いながらいろいろと良くしてくれる。

(私は光子ちゃんに嫌われてたのか・・・・・・)

そう思いながら頭がズキンと痛むのがわかった。

(ワイングラスに入ってた液体って・・・・・・)

そのままガン!とおでこを机に叩きつけ、力の入らない体で

ズルズルと机から滑り落ち、七海はあおむけに部屋の真ん中で

倒れた。

 

「ひっかかった、ひーっかかった♪」

光子の声が遠くに・・・・・・。

 

 

V

 

「あ・・・・・・れ?」

むわっとした空気、ここは外か? だが空が異常に青い。

不思議に思っていると空が動いた。

どうやらビニール製の青いパラソルらしかった。

 

「気が付いた? ここ私の家の屋上の仮説リング。外からは見えないでしょう」

「あ・・・・・・う」

私はふらふらする頭で何かを答えた。

おかしい。ふらふらする。白昼夢のようだ、これは本当に夢だったりしないのだろうか?

そして口の中に異和感がする。唾液がダラダラ垂れるのもそのせいか。

というか下着にされている。汗をいっぱい吸った下着。

普通なら「キャー」だろうがいかんせん、頭がボーッとする。さっきの気化した液体を吸った

せいか?

「あなたの口でマウスピース作って入れておいたから」

ダラダラ唾液が。ボクシングってこういうものだっけ。

 

「とにかくあなたに私の気持ちを理解させようと思ってね、だって私こういうふうに育っちゃ

ったんだから何もかも自分の思い通りにならないときにくわないんでね、さあリングへ」

(吉本君の事か・・・・・・一人の男をめぐってボクシングなんて本当にあるんだ)

「ぶっ倒れて動かなくなったら負けね。熱中症を防ぐために各コーナーにスポーツドリンクを

置いてあるから自由に飲むように。

 

私はリングの上に上がった。フラフラして現実感が無い。

どうやら光子が赤コーナー、私が蒼コーナーらしい。

お互いそのコーナーの色のグローブを付けている。マウスピースはお互いに白だと聞いた。

「ほらカーン、試合開始です!」

(カーンと言われたってボクシングなんてやったことないし・・・・・・)

 

W

 

軽いパンチごっこならしたことがあるが、七海は全く動けない、思ったより相手のパンチは激しい。

ガードの仕方も忘れない。

光子の拳が一瞬消えたかと思うと顔にガンと衝撃が走りよろける。思ったほど痛くは無いが。

 

 暑い、暑い。ひたすら暑く下着はベシャベシャになっている。

七海は光子からのパンチをただ必死に大きなモーションで裂けるだけ。

バグッ、バグッ!

ボディに打ち込まれた。これはぼうっとした頭の中でも苦しいと思える程悶絶した。

からからに乾いた口の中から水飴のように粘性のついた唾液とマウスピースがゲボリと吐き出された。

「七海ちゃんボクシング初心者? これから顔に食らうけどマウスピースは大事だから」

光子はそう言いながら跳ねている七海の純白マウスピースをキャッチした。

ローションのように糸だけはしっかりと光り、ヌラヌラした表面が視える。泡立った唾液は

歯のくぼみの部分に少し溜まっていた。

「ほら、顔に近づけなくてもくっさいマウスピース。大事にね。口あけて」

七海は口を言われるがままにあーんと開けた。

「その前に直に嗅いでみようかしら・・・・・・く、くさっ!」

「く、口に」

ぼうっとした七海は恥ずかしかったが、ぼうっとした頭のせいでそこまで精神的ダメージは

受けなかった。

ガポッと口の中にマウスピースが入れられる。

「ふふ、臭くて大事なものだからね」

光子のにっちゃりとした笑顔。

(の、喉がかわいた)

七海はヨロヨロと自分コーナーへ行ってスポーツドリンクを急いで掴んで飲み干すようにする。

ゴキュゴキュゴキュゴキュ

 

「あーあ、そんなに飲んじゃあねぇ・・・・・・」

「ふぇ?」

「うん、飲み過ぎるとちょっとキツいよ」

そう言いながら光子は七海へ突っ込んでいった。

光子のみぞおちにボディパンチは突き刺さった。

何かがこみ上げてくる、飲み過ぎるとキツいとはこういう・・・・・・」

 

「オゲッ、オゲェェェェェェェッ!」

七海はこめかみに血管を浮かべて必死に透明な液体を吐いた。

びしゃびちゃびちゃびちゃ」

「リングの上が潤ってもねぇ・・・・・・」

ズンムッ!

再度ボディにパンチが入れられる。

「ウゴブッ! ゲボアッ!」

透明な液体は光子の顔面にぶちまけられた。

「あらら、ナナのゲロをかぶっちゃった。でも涼しいー」

清々したというような顔を光子はしている。

 

Y

 

「そろそろ暑いからパンツもブラもとろうかな」

光子がそう言い出した。

「ここは監視カメラも無いし外から見れないから、涼しくなるにはそれがいいよ」

そう言いながら脱ぎにくそうにブラジャーとパンツをズルズルッと脱いだ。

「うーん、私ってパンツ臭いのかな?」

そう言いながら光子は自分のパンツのクロッチを嗅ぐ。

「海の潮の香りとひどく汗の匂いがする。そんなに臭くないと思わない?」

七海はロープにもたれかかって少しぐったりとしている。

「思わない? ねぇ?」

ビチャリと七海の鼻に光子のパンツのクロッチが押し付けられた。

「ぐふっ、ぐふっ・・・・・・」

むせるような汗の匂いがする。少し尿の混じったような。

「じゃあさ」

 

バキッ! ドガッ!

左右にフックを打ち込む、打ち込まれた七海はズルズルと腰を落とした。

口からはマウスピースがヌラヌラとぬめって、もっこりと盛り上がっている。

「結構あなたが目を覚ますまでマウスピースも入れっぱなしにしてたからどっちが

臭いかな?」

バキッ! バキッ!

容赦なくフックが七海の左右の頬に突き刺さる。気が遠くなりそうになる。

「ぶへぁっ!」

七海はマウスピースを吐き出した。少しスポーツドリンクのおかげで体に水分が

まわっているのだろうか、唾液が大量に吐き出され、それをまとってヌメるマウスピースが

吐き出された。

びたん、びたんと跳ねるマウスピースは自分で意思を持っているようだった。

それをヌルンとつかみ損ないながらも光子はグローブで撮り、

七海は顔のパンツを取られ、自らのマウスピースを鼻に押し付けられる事になった。

 

Z

 

「くっ臭い! 臭い!」七海は叫んだ。

「やっと声が出るようになったわねぇ、あれの効果もそろそろ落ちてきたのかしら?」

「臭い!」

七海は叫び続ける。まさか自分のマウスピースがこんなに臭いとは思わなかった。

それに自分の歯型がいびつに付いておりグロテスクだ。そして血が少し付着している。

「吉本君には渡さないわよ」

「え?」

「吉本君には渡さないって事。ノートを見たでしょ?」

「え、吉本君が好きなんじゃないの?」

「違う、違う! 私のナナが吉本君に取られるのが嫌だっただけ!」

「えっ・・・・・・」

「もう後戻りは出来ないと思って。ほら、殴ってきなさい、公平にいかなくちゃ。

今度は私がめいっぱいパンチを受けるから! ほら! ナナ!」

七海の理性はプツンと切れた。

惰性で起こることに流されていたが、まだ少しぼうっとする頭はまともに機能しないようだった。

滅茶苦茶にパンチを打つ。

ぐにゃぐにゃ柔らかい女体。普段は華奢に見えたが、光子の体はぽっちゃりとしていた。

柔らかい、柔らかい肉にパンチがめり込んでいく。

その度に溜息や「ウッ」と唸るように声が漏れる。もう喧嘩のパンチといっしょだ。

 

 

ボタッ、ボタッ

 

光子の鼻血がリングの上に滴った。

(殴り・・・・・・すぎた?)

「もっと、もっと!」

バキッ、グシャッ、ドガァァッ!

「ぶぅっ!」

光子の口の中の純白のマウスピースが紅く染まっている。

「グシャッ!」

「グシャッ!」

最後にクロスカウンターになりお互いの血まみれのマウスピースが吐き出される。

「うぶっ!」

「ぐじゅっ!」

ビタンビタンと二つのマウスピースは戯れるように、距離と少しとって跳ね始めた。

 

[

「わ、私もパンツ脱ぐ」

もう七海はどうでも良くなっていたのか、何かに目覚めてしまったのかそう言った。

たどたどしく、そして鼻血を垂らしながらパンツを脱ぐ。

「カ、カシテカシテ!」

光子がそれを奪い取る。

「うわぁ、これ恥垢? カスみたいなのがついてるし、オマ○コの割れ目の形に

黄色い濃い染みが付いてる、匂うね」

光子はそのクロッチに鼻を突っ込んだ。

「うわぁ、チーズ臭い。ブルーチーズと据えた匂いがする、女の子のオマ○コって

いろいろと人によって匂いが違うんだね」

「いい・・・・・・匂いかな」

「うん、いい匂い。興奮して来たからもっとなぐりっこしましょ! マウスピース咥えてさ」

二人はマウスピースを持って口にガポッと入れた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「これ、私のじゃない、くっさいツバの匂いが口いっぱいに広がって来る、ボエッ!」

光子は吐きそうになる。

七海は案外としっくりきていた、歯型はお互いに違うのであまり歯にフィットはしない。

 

バキッ!

ドカッ!

ドキャッ!

ドゴォッ!

 

\

 

二人の顔はボコボコに晴れ上がっていた。

「気持ち良いよぉ、気持ち良いよナナ・・・・・・ナナ好きだよぉ」

「わ、私も・・・・・・好きだよ」

 

グシャッ!

ドボッ!

 

「ああもう、私のマウスピースを吐き出してリングに眠って!」

がむしゃらに光子がパンチを打ってきた。

 

ドグシャァッ!

「うぶぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

夕陽の中、烏が声に驚いてバサバサと飛び立つ。

七海のマウスピースは吐き出されて宙を舞っていた、血みどろで。

ボチャンッ!

リングの上で大きく跳ねるとそれはリングの外へ出ていった。

ベチャッ、ベチャッ、ベチャベチャベチャッ!」

「ナナが私のマウスピース吐いて、それが血まみれで、それがびたんびたん

跳ねてるよぉぉぉぉ!」

光子は立ったまま自分の性器をジュプジュプとこすりながらオナニーをしていた。

顔は紅く腫れ上がったままで。

(よくわからないけどもう立てない・・・・・・負けたんだ)

そんなダウンしている七海の顔面を裸足で光子が踏み付ける。

「私は買ったんだぁ、買ったんだぁ、私のモノなんだぁ!」

光子は方向する。

ごりごりっと頭を踏みつけられる度に音がする。

「あはははは、あははははは」

そして

「ナナちゃんのきったないマウスピース返すわね・・・・・・ペェッ」

七海の顔にベチャリとマウスピースが落ちてきた。きっと顔には

血の跡が付いているのだろう。

 

 

そういった出来事があって(ボクシングの日には喧嘩に巻き込まれたと家の人に嘘を

ついた)七海と光子は数次つ出会わなかった。

それから一週間後七海の誕生日に放課後、光子からプレゼントをもらった。

「開けて開けて」

「う、うん」

「中からビニールに包まれた唾液べっとりのマウスピースが出てきた。

「一週間つけっぱなしだったんだっ!」

見ると唾液の染みすぎで黄色く変色している。

それを取り出して七海は匂いを嗅いだ。

「うん、臭い。ひどく生臭くてオナニーに使えそう」

「そう? ちゃんと殴られてボディで吐いたんだよ? 痰も混じってるかも」

「ホント?わぁ、凄い匂いだ。次は私がオカズを提供してあげるね」

 

私の人生は狂い始めたのか、これが正しい道なのかは分からない。

ただ今晩の激しいオナニーを考えるとわくわくするのだ。

光子ちゃんの使用済みのマウスピースの酸っぱい匂い。

 

 

                                 終わり。